2007/8/11 日立基礎研究所の二重スリットの実験は波動性で説明できる
日立基礎研究所の二重スリットの実験は「科学史上最も美しい実験」と言われています。
今回は、この電子を使った二重スリットの実験を波動性から説明してみます。
この議論は、私のホームページをご覧になってくださり様々なご助言を頂いている
梅原誠一郎氏
船水康宏氏
佐藤良孝氏
斎藤保氏
川口純氏
盛屋喜夫氏
とのメールでのやりとりをもとに作成されています。
特に梅原誠一郎氏からは、この二重スリットの実験のランダムに観測される輝点がどのようにして現れるかの重要なご助言を頂きました。
【1】ゆらぎを考慮することにより、波動性から二重スリットの実験を説明する。
川口さんに取得していただいた、二重スリットの実験に関する日立基礎研究所の外村彰氏の論文(「Demonstration of single-electron buildup of an interference pattern」A.Tonomura,J.Endo,T.Matsuda,T.Kawasaki,and H.Ezawa[ American Journal of Physics 57, 117-120 (1989)])を読んでみました。
梅原さんがご指摘のように、この実験では実は、「ゆらぎ」が重要なカギをにぎっています。「ゆらぎ」を考慮に入れることによって、粒子としての電子を持ち出さなくても、波動性だけから、この実験の結果を説明できることが分かりました。
「ゆらぎ」の中で、この実験に最も影響を与えているのは、バイプリズムの中央にあるフィラメントです。
フィラメントが作るポテンシャルエネルギーがゆらいでいます。
外村論文の(1)式
の中のが、フィラメントが作るポテンシャルを表していますが、このは実は、とだけの関数ではなく時間の関数にもなっているはずです。つまり時間と共にゆらいでいるはずです。さらにそのゆらぎは後で考察するようにブラウン運動的ですので左右対称ではないはずです。
このポテンシャルがゆらいでいるため、外村論文の(2)式
のはバイプリズムから出てきた波ごとに異なった値になるはずです。バイプリズムには次から次へと電子波が入ってゆき、その波がバイプリズムの出口に到達するまでに受ける影響の集積でが決まると(2)式は読めます。ポテンシャルがゆらいでいるため、第一波がバイプリズムの中で受けた影響と、第二波が受けた影響とでは、一般に異なります。それで、波によっての値が異なることになるのです。
外村論文の(4)式
が干渉縞を表す式ですが、ここにが入っていますから、これだと干渉縞ですら時間と共にゆらぎます。
いわんや波動をや、です。
外村論文の(3)式
が左右からスクリーン上に到達する波動ですが、ここにもが入っていますから、バイプリズムからスクリーンに至る部分の波動はフィラメントのゆらぎの影響を受けて、位相がゆらいでしまいます。
波数がゆらいでしまうときの干渉の様子を以下に見てみましょう。
外村論文の(3)式により、左からくる波の波数ベクトルは、です。
また右からくる波の波数ベクトルは、です。
しかし、私たちの場合は、ゆらぎを考慮に入れますので、左からのと右からのは一般に等しくありません。これは、ポテンシャルが左右対称にゆらがないことに起因します。そこで、
左からくる波の波数ベクトルをと、右からくる波の波数ベクトルをとそれぞれ書いてみます。(あるいはについて見てみても、第一波、第二波、第三波・・・で、異なる値になります。)
図1.左からくる波数と右からくる波数が等しい場合
輝点は、スクリーンの中央に現れます。
図2.左からくる波数より右からくる波数の方が大きい場合
輝点は、左側にずれます。
図3.左からくる波数より右からくる波数の方が小さい場合
輝点は、右側にずれます。
これが、ランダムな位置で観測される仕組みです。
フィラメントが作るポテンシャルがゆらいでいるため、左のプリズムを通ってくる波の波数と右のプリズムを通ってくる波の波数は、ゆらぎの影響で大きくなったり小さくなったりします。その結果、上図のように二つの波が強めあう位置がその時々によって、異なるわけです。
現在の量子論では、図1の場合しか考えておらず、以下の図で丸をつけたところが干渉縞の位置といっているわけですから、私たちの解釈とは根本的に異なります。
現在の量子論は非常に静的なイメージですが、ゆらぎを考慮した私たちの場合は、動き回る二本のサーチライトが独立して夜空に光の波を振り撒いているように、とても動的なイメージになります。
次に、電子波を弱くしていったときに、実験では何故、輝点として観測されるのかを考えて行きましょう。
実際の実験では、バイプリズムの開口部がデルタ関数のような理想的なものではなく、有限の大きさを持っているため、上記の干渉効果にさらに回折効果が加わります。
所謂、フラウンホーファー回折です。
このため、スクリーン上の電子波の強度は、関数で表される干渉縞を関数()で絞り込んだ形になります(下図参照。数値の一部は外村論文より抜粋)。
スクリーン上の電子波の強度は、山をスライスしたこの感じになります。外村実験では400スライスです。
さらに実験では、ぎりぎりの感度で撮像しているため、山頂のごく狭い領域(所謂、エアリーディスクの中心部)のみが映ることになります。これが、スクリーン上で観測される輝点であると私は思います。
そしてこの山頂が前述のゆらぎによって、ふらふらとゆれるのだと思います。
場がゆらぎ、電子波がゆらぐため、フラウンホーファー回折の分布のピークがランダムに現れるのです。そして、電子銃から放出される電子波が弱いため、ピークの部分だけが造影されるわけです。
どうでしょうか。いかにも、電子に見えませんか。
スクリーン上でランダムに観測される輝点は、あくまでも波でありまして、電子などという粒子が存在するのではないと思います。
以上の議論が正しければ、私たちは「素粒子などというものは存在しない」と言う権利を得たかもしれません。
※以上の議論は、量子論の常識になりつつあるコペンハーゲン解釈(所謂、波動関数の確率解釈)に真っ向から逆らった新しい解釈です。そして粒子と言う概念を否定するものです。
【2】バイプリズムのフィラメントが作るポテンシャルがゆらいでいる根拠
フィラメントが作るポテンシャルがゆらいでいるという根拠は以下のとおりです。
外村論文の(2)式と(3)式の間の文章の中に
、
という式が見られますので、を消去すれば、
となります。
この式を外村論文の(1)式に代入すれば、
となりまして、指数関数の二項目は、私のホームページ
「経路積分に見る波動性と粒子性の二重性、そしてより根源的な存在」の中のC式の下にある、
にほぼ一致します。
このホームページの中で、私はこの場をと名づけ
で表されるものがランダムな場になると指摘しています(G式の五行上あたりです。)。
そして物理の方々と話すときは恥ずかしいのですが私はこれを華厳構造と呼んでいます。
シュレディンガー方程式の解であるは、このランダムな場の平均(期待値)をとったものです。
なにで期待値をとるかと申しますと、非相対論的な場合、この期待値は正規分布関数でとられます。(正規分布関数とは、ランダムウォーク(ブラウン運動)の回数を無限に増やしたものです。)
つまりのゆらぎは、非相対論的な場合はブラウン運動でモデル化できるというわけです。
そんな風にはゆらいでいるのです。そしてポテンシャルがゆらいでいるのです。
外村論文では、運動エネルギー
をなぜか無視していますので、本来シュレディンガー方程式の波動関数は、
と書かれます。
このなかの、
の部分があることによって、ランダムにゆらいでいる場に対して、平均化する操作が入ります。
これが、「シュレディンガー方程式の解であるは、ランダムな場の平均(期待値)をとったもの」の意味するところです。
つまり、シュレディンガー方程式の解である波動関数は近似的なものにすぎないのです。
デビッド・ボームの言葉を引用しておきましょう。
「場のゆらぎはランダムで一定していない。量子論で用いられる 場の値は、ある時間にわたっての時間的平均である。場のゆらぎは、量子力学が対象としているレベルよりもっと下位のレベルに起因するものである。これは、小さな液滴のブラウン運動がより下位のレベルである原子レベルに起因するのとちょうど同じである。そしてまたニュートンの運動法則が液滴の平均的な振舞いを規定しているように、シュレディンガーの波動方程式が
場の平均的な振舞いを規定しているのである。」(全体性と内蔵秩序p150)
【3】なぜ運動エネルギーが平均操作をすることになるのか
運動エネルギーに相当する
の部分を少し式変形しますと、正規分布関数になるからです。(これは、「ファインマン経路積分と量子力学」(R.P.ファインマン/A.R.ヒッブス著 マグロウヒル)や、「量子力学と経路積分」(R.P.ファインマン/A.R.ヒッブス著 みすず書房)などの中でファインマンがよくやる手法です。)
みにくいですが、私のホームページ「経路積分に見る波動性と粒子性の二重性、そしてより根源的な存在」の中のC式
がそれを表しています。
これと、正規分布関数
とを比較してみますと、
とおいて、時間を虚数にすれば、ぴったり一致します。
運動エネルギーを時間で積分したものを指数関数の上に載せて、さらに時間を虚数にすると、この指数関数がなんと正規分布関数になってしまう!というのが、ファインマンの経路積分の愉快なところなのです!。
ファインマンの経路積分をつかいますと、シュレディンガー方程式の解は、
と一般的に解けてしまいます!。は期待値をとるという意味です。
期待値をとらなければならないのは、ポテンシャルエネルギーがゆらいでしまっているからです。
これをファインマン-カッツの公式と呼びます。
時間を虚数にすることはユークリッド化と申しまして、ホーキングがビッグバン理論で宇宙の初めの時間を虚数にしたということで有名です。
ホーキングは重力場にファインマンの経路積分を大胆にも適用したのです。