経路積分に見る波動性と粒子性の二重性、そしてより根源的な存在
今回の考察には、非常に重要な内容が含まれています。量子論における波動性と粒子性の二重性が決して不思議なものではなく、相容れるものであることが証明されます。
またシュレディンガー方程式の解である波動関数は、実はさらに根源的な場の平均的な振舞いを規定していたにすぎないことが証明されます。
経路積分と統計理論(実はこの二つは表裏一体)を駆使していますので、若干難解ですが、興味のある方は、順を追ってゆっくりと読んでいってください。
量子論が何を言えていて、量子論が何を言えていないのかがはっきりとわかります。
経路積分の表式には、ハミルトニアン経路積分とラグランジュアン経路積分があります。
これまでのお話は、ラグランジュアン経路積分で話してきました。
位置と運動量を独立変数と考えて、シュレディンガー方程式の解である波動関数を表したものが以下のハミルトニアン経路積分です。
・・・@
これを記号的に
・・・ハミルトニアン経路積分
と書いたりします。ハミルトニアン経路積分は、ラグランジュアン経路積分に変形できます。
@より、
・・・A
となりますが、運動量に関するガウス積分を実行しますと、
より、
・・・B
となります。これを記号的に
・・・ラグランジュアン経路積分
と書きます。
Bを、
・・・C
と変形してみますと、ラグランジュアン経路積分は、統計力学になります。つまり、ポテンシャルエネルギー部分
の期待値をとっている形になっています。
が正規分布関数
であることに注意しましょう。(運動エネルギー部分は、正分布関数になってしまいました。)
これと同様に、ハミルトニアン経路積分も統計力学の形にすることができます。
Aより、
規格化因子を変形してみると、
・・・D
となります。
・・・E
や
・・・F
が正規分布関数になっていることがわかります。
つまりポテンシャルエネルギー部分を位置座標で期待値をとり、さらに運動量でも期待値をとるという形になっています。
ここで、波動性と粒子性の二重性について考察してみましょう。
ハミルトニアン経路積分は、
でしたが、変形してみますと、
です。はおなじみの平面波ですので、ハミルトニアン経路積分での表式は波動性をまさに表しています。
一方、CやDの表式は、ポテンシャルエネルギー部分を正規分布関数で期待値をとる形になっていますので、位置座標が
という確率過程に従っているということを意味しています。ここで、
・・・ボラティリティー(標準偏差)
・・・ブラウン運動
・・・標準正規確率変数
です。
このことは、ブラウン運動している量子力学的粒子の存在を示唆しています。
つまり粒子性です。
この量子力学的粒子がブラウン運動をしているため、
で表されるものもランダムな場になります。CやD式はの平均(期待値)を取ったものがであり、それがすなわちシュレディンガー方程式の解である波動関数であることを意味しています。
経路積分をいろいろな形に変形することにより、波動性としても解釈でき、粒子性としても解釈できることがわかります。
今回の考察で、量子論の波動性と粒子性の二重性は、相容れるものであり、決して不思議なものではないということがわかりました。
E式はいわゆるガウス分布ですので、位置座標が、
・・・G
程度ばらついていることを意味します。
F式も同じくガウス分布ですので、運動量が、
・・・H
程度ばらついていることを意味します。
GとHより、
となります。いわゆる不確定性関係です。
最後に、華厳との関係を見てみましょう。
「ポテンシャルエネルギーと華厳構造」の中で、
という式を紹介しました。
CやDによると、波動関数は、ブラウン運動する量子力学的粒子場
・・・I
の期待値の形になっていることがわかります。つまり、
あるいは
です。
シュレディンガー方程式
は、ブラウン運動する量子力学的粒子場の期待値つまり平均が従う方程式にすぎなかったのです。
シュレディンガーの波動関数よりも根源的なものとして、の存在があるようです。
そしてこれはI式に見るように華厳構造です。(これが縁起や阿頼耶識、虚空蔵、アカシックレコードあるいはホログラフィー宇宙と呼ばれるものかもしれません。)
デビッド・ボームの言葉を引用しておきましょう。
「場のゆらぎはランダムで一定していない。量子論で用いられる場の値は、ある時間にわたっての時間的平均である。場のゆらぎは、量子力学が対象としているレベルよりもっと下位のレベルに起因するものである。これは、小さな液滴のブラウン運動がより下位のレベルである原子レベルに起因するのとちょうど同じである。そしてまたニュートンの運動法則が液滴の平均的な振舞いを規定しているように、シュレディンガーの波動方程式が場の平均的な振舞いを規定しているのである。」(全体性と内蔵秩序 p150)
「現代物理のおかしさ」の中で「ニールス・ボーアに代表されるコペンハーゲン解釈を捨てて、デビッド・ボームのホログラフィックパラダイム理論を採用することによって、現代物理学は正しい方向へ戻ることが出来るのではないかと私は考えております。」と申しましたが、この考えは今でも変わっておりません。
波動関数は、シュレディンガー方程式に従いますので、予測可能です。
現在の量子論では、上で見てきましたように、量子力学的粒子はブラウン運動でしか表記できていませんので、その動きはまったくランダムです。そして、その量子力学的粒子の集合で記述される量子力学的粒子場もまったくランダムです。
この華厳構造で表される量子力学的粒子場の平均的な振舞いが、シュレディンガー方程式で規定されているにすぎないのです。シュレディンガー方程式の解である波動関数は、ただ単に、華厳構造の平均にすぎないのです。
現在の量子論では、華厳構造で表される量子力学的粒子場の平均的な振舞いである波動関数の時間発展は、シュレディンガー方程式で正確に予想することができますが、量子力学的粒子が最後の瞬間にどこで観測されるかは、まったくランダムに決まるとしか言うことができません。そして、その量子力学的粒子の集合で記述される量子力学的粒子場もまったくランダムです。
現在の量子論はこんな段階にとどまっています。
デビッド・ボームは、この最後の段階がまったくランダムである量子論に満足できず、隠れた変数理論の方向へ行きました。
アインシュタインは、この状況のことを嫌って、「神はサイコロ遊びをなさらない」と量子論を皮肉りました。
量子論は完全なのでしょうか。
量子力学的粒子は、本質的にブラウン運動をしているのでしょうか。
それとも、ブラウン運動をする理由があるのでしょうか。
量子力学的粒子は何故ブラウン運動しているのでしょうか。
現在はブラウン運動でしか記述できていませんが、そのブラウン運動を起こす原因となっている何かが奥に隠れているのでしょうか。
そして、ブラウン運動をしている量子力学的粒子の集合である華厳構造との関連は。
ブラウン運動が本質的であれ、二次的なものであれ、今回の考察で、シュレディンガー方程式の解である波動関数よりも根源的な存在があることは確かです。
それが華厳構造で表されるです。シュレディンガー方程式は、この華厳構造の平均的な振舞いを規定しているにすぎないからです。
そしてその平均的な振舞いを決めるにあたっての確率分布は、非相対論的量子論(シュレディンガー方程式)の場合はブラウン運動の正規分布でしたが(運動エネルギーがなので)、相対論的量子論の場合はどうなるのでしょうか。
さらなる探求の興味がつきません。