ポテンシャルエネルギーと華厳構造
以前「マッハの原理」の中で、
という式をご紹介しました。
右辺第二項は、あらゆる二時空点間のエネルギー運動量テンソルは、重力場の伝播関数を通して相互作用をしていると読めます。
そしてこれは、「ファインマン経路積分と量子力学」(R.P.ファインマン/A.R.ヒッブス著 マグロウヒル)や「量子力学と経路積分」(R.P.ファインマン/A.R.ヒッブス著 みすず書房)のP249の(9-102)式の作用
あるいは、
に対応します。
この式は電磁場の式ですが、この式ではあらゆる二時空点間の四元電流密度が電磁場の伝播関数を通して相互作用をしているというものです。
これらの式を一般的に書きますと、
・・・@
となります。
ポテンシャルエネルギーをとしますと、作用は一般に、
・・・A
と書けます。@とAを比べますと、
・・・B
となりますので、ポテンシャルエネルギーと呼ばれているものが、実は華厳構造になっていることが分かります。
高校の物理では、重力ポテンシャルの中の質点のエネルギーは、
と教わりました。また静電ポテンシャルの中の質点のエネルギーは、
などと教わりましたが、この重力ポテンシャルや静電ポテンシャルの記述は、実は粗雑な近似だったのです。
本当は、@式のように、あらゆる時空間の相互作用を畳み込んだ華厳構造でポテンシャルエネルギーは表されなければならなかったのです。その相互作用は伝播関数を通してなされます。
宇宙開闢からの、そして宇宙の隅から隅までの経歴はすべてこのポテンシャルエネルギーの中に蓄えられているのです!
では次にで表される運動エネルギーの意味を考えてみましょう。
@式に戻ります。速度はですので、@式は、
・・・C
となります。
量子論では、
・・・D
で表される波動関数が重要な役割をしています。
DにCを代入してみますと、
・・・E
これを正規分布関数(ガウス関数)と比較してみることは、非常に興味深いです。
ドリフト係数が、拡散係数がの確率過程は、標準ブラウン運動を用いると
と表すことが出来ます。その時の正規分布関数は、
と書けますので、Eの第一項
と比べてみますと、これは、ボラティリティーが
の正規分布であることを示しています。量子力学的粒子と呼ばれるものは不規則なブラウン運動をしているのかもしれません。
またボラティリティーがの正規分布とは、が程度に広がっていることを意味しますので、Eの第一項は、が程度広がっていることになります。
つまり、
となって、不確定性関係を導出することができます。
E式は、
と書けますので、これは、華厳構造の中のひとつの軌道に着目し、その軌道のある時刻における方向の期待値をとることを意味しています。そして、連続する時間で次から次へと期待値をとっていったものが、波動関数であるということになります。
これはファインマン−カッツの公式と呼ばれています。
ファインマンの経路積分において時間を虚数にすることにより、経路積分をウィーナー積分で表される統計力学の世界に変換したことを意味しています。
これは、実数時間では波動性を示し、虚数時間ではブラウン運動をする粒子性を示すとも解釈できます(あるいは虚数時間では波動性、実数時間では粒子性)。
つまり量子論における、波動性と粒子性の二面性(相補性)とは、同じ事象を実時間の方向から見ると波動に見え、虚時間の方向から見ると粒子に見えるということなのではないでしょうか。
運動エネルギーがで表される非相対論的な世界とは、この期待値をとるときの分布関数を、正規分布であると仮定することに相当するのです。そして、質量と呼ばれているものは、この正規分布関数のボラティリティー(標準偏差)にひもづきます。
質量が大きいと標準偏差は小さくなってシャープな存在となり、逆に質量が小さくなると標準偏差が大きくなってぼやけた存在になります。
宇宙の隅から隅までそして、宇宙開闢からの全ての経歴が畳み込まれたポテンシャルエネルギーによって、存在の在り方が決まってくるという構造をこれは表しています。
ポテンシャルエネルギーの中にあらゆる経歴が畳み込まれています。
宇宙開闢から、そして宇宙全体のあらゆる経験が畳み込まれたポテンシャルエネルギーの期待値が私たちの存在、ということになります。
蛇足ですが、ここで、華厳構造を最終的なペイオフ関数と考え、時間を未来から現在に遡る形式に書き改めてみますと、
これは、金融工学のオプションの価格付け理論などにでてくる、「バックワードインダクション」という方法に似ています。
Appendix
経路積分は、
でありますので、波動関数は、
と書けます。華厳構造で表されるポテンシャルエネルギーを、次から次へと正規分布関数で期待値をとってゆく形がよく見て取れます。
正確な議論をするとこのようになります。
これは次の経路積分と同等です。
ここに、
で表される経路を、いろいろとずらしてみた時、
で記述される作用が極小となるところが、波が重なり合って波動関数の振幅が大きくなります。そのほかの経路に相当する振幅は波が打ち消しあって消えてしまいます。
波動関数の振幅が大きくなる経路が、実際に現れる現象です。