相対論的電子場の方程式(Dirac方程式)
これまで、波動方程式
で代表される電磁場やKlein-Gordon方程式
で代表される相対論的粒子場を扱ってきましたが、これらは何れもボーズ粒子(ボゾン)と呼ばれるもので、これだけでは世の中の半分しか説明できていません。世の中にはボーズ粒子(ボゾン)のほかに、フェルミ粒子(フェルミオン)というものがあります。これは電子に代表され、Dirac方程式に従います。
スピノール |
テンソル |
スピン |
|
場(波動) |
粒子 |
0階 |
0階 |
0 |
スカラー |
Klein-Gordon場 |
ボゾン(π中間子) |
1階 |
− |
1/2 |
|
Dirac場 |
フェルミオン(電子、陽子、中性子) |
2階 |
1階 |
1 |
ベクトル |
電磁場 |
ボゾン(光子) |
3階 |
− |
3/2 |
|
Rarita-Schwinger場 |
フェルミオン(重力微子) |
4階 |
2階 |
2 |
|
重力場 |
ボゾン(重力子) |
Diracは、Klein-Gordon方程式を時間について1階になるようにKlein-Gordon方程式の左辺の2階微分演算子の平方根をとることを考えました。
しかし、単純な平方根では
のように、擬微分方程式となってしまい、純粋な微分方程式にはなりません。そこでDiracは平方根を有理化してしまおうという発想に到りました。つまり、
という1階の微分演算子を考え、係数を
が恒等的に成り立つように選ぶのです。結果、時間について1階となる相対論的な波動方程式、
・・・@
が得られました。これを自由電子のDirac方程式と呼びます。
なお係数は、パウリのスピン行列を使うと、
すなわち、と書けることに注意しましょう。
つまりは、電子のスピンさえも、Klein-Gordonの波動方程式の「平方根」をとることによって、波動性から導き出すことができてしまったわけです。
自由電子のDirac方程式を丁寧に書き下してみますと、右辺第一項は、
となり、右辺第二項は、
ですので、以下のような四組の波動方程式が得られます。
・・・A-1
・・・A-2
・・・A-3
・・・A-4
ここで、@式
を形式的に解いてみますと、
となります。
これは、この演算子が、時間発展演算子プラス空間回転演算子になっていることを
意味しています。
つまり、
の部分が時間発展を決定し、
の部分が空間回転を決定します。
例えばA-1式とA-2式をあわせてみて見ますと、
成分がで表される波動関数ベクトルは、時間を未来方向に進んで行きますが、成分がで表される軸の周りに時計回りの螺旋状に回転している波動関数ベクトルと絡み合っていると読めます。
また、A-3式とA-4式をあわせてみて見ますと、
成分がで表される波動関数ベクトルは、時間を過去方向に進んで行きますが、成分がで表される軸の周りに反時計回りの螺旋状に回転している波動関数ベクトルと絡み合っていると読めます。
自由電子とは、時計回りの螺旋状の波と、反時計回りの螺旋状の波が絡み合っているものとして表現されるのです。
参考までにA式をいろいろな形に変形しておきましょう。
両辺をで割ると、
となりますし、適当に移項してみますと、
とも書けます。これは行列形式で、
とも書けます。