よくわかる量子力学(連続性と非連続性とをつなぐ伝播関数)
ファインマンの提唱した経路積分の考え方の中には、不思議に思われがちな量子力学が、実はそんなに難しくはないことを表わしている関係式があります。
その式とは、
です。
左辺については、「ファインマンの経路積分」で既にお話いたしました。
右辺につきましては、任意の時刻における波動関数は、
と書けますが、ある時刻において、
となります。よって、
となりますので、ある時刻における波動関数は、
となります。また、
ですので、
となります。これを、
と比較して、
を導くことが出来ます。
このように、伝播関数は経路積分で表せる一方で、整数nでとびとびになっているエネルギーで表すことも出来るわけです。
経路積分は、粒子がたどるあらゆる経路で積分する(足し合わせる)というものですので、これが二重スリットの実験などで干渉がおこる仕組みであると言えます。つまり量子の波動性は経路積分によって説明されます。
一方右辺の整数nでの和の形式は、エネルギーがとびとびに観測される仕組みを表していると言えます。つまり量子の粒子性(ある大きさの塊でしかエネルギーのやり取りが出来ない意味での粒子性)は、この整数nでの和の形式によって説明されます。
そしてこれら二つの概念をつないでいるのがまさに伝播関数です。
つないでいるという表現よりも、同じ伝播関数が二つの形式で表せると言った方が良いかもしれません。一つは波動性の根拠となる経路積分の形式、一つは粒子性の根拠となる整数nでの和の形式です。
あるいは言い方を変えてみますと、「ファインマンの経路積分」でお話いたしました通り、
経路積分での伝播関数は、さらにその経路を小道に分割したときのそれぞれの伝播関数の畳み込みで表されております。従いまして、二つの形式で表現できる伝播関数は、一方で畳み込み積の形で表現できますし、同時に整数nでとびとびになっている状態の重ね合わせとしても表現できるわけです。
この世は、波動であると同時に粒子であり、また、畳み込みであると同時に重ね合せでもあるということになります。
この関係を量子力学の中で最も典型的な例として取り上げられる調和振動子で説明してみましょう。
調和振動子の場合、経路積分は、
ここに
です。一方、整数nでの和の形式は、
ですので、連続性と非連続性とをつなぐ式は、
と表わせます。
とを用いると、左辺は、
となります。
これをのべきで2次の項まで展開しますと、
となります。整理しますと、
となります。これより0次の項を抜き出しますと、
ですので、
、
であることが分かります。
1次の項を抜き出しますと、
ですので、
、
であることが分かります。
さらに2次の項を抜き出すと、
ですので、
、
となります。
この結果は、多くの量子力学の教科書に出ているものと完全に一致しています。
多くの教科書では、シュレディンガー方程式からHermite多項式の微分方程式に持ち込んで固有値問題を解く方法か、ハイゼンベルグ描像から生成消滅演算子を持ち出して解く方法がしばしば説明されておりますが、このファインマンの方法では経路積分によって計算された伝播関数をただテーラー展開するだけで、調和振動子のエネルギー固有値と固有関数が求まってしまうわけです。なんとも愉快ではありませんか!
以上の説明は若干分かりにくかったかもしれませんので、正確さは欠きますがこの仕組みに隠れているエッセンスの部分をお話すると以下のようになります。
それは、量子力学の基本構造が、
というものであるということです。つまり「指数関数の上にさらに指数関数が乗っている」というものです。
これを展開しますと、
となりますので、冒頭でご紹介した、
の関係式を使って、
と比較することにより、
の関係が得られるということです。
指数関数であるために波動性を示しますが、指数関数をテーラー展開することにより、そこからとびとびの粒子性が顕現するわけです。