物理法則はいかにして発見されたか

2005/1/8
物理法則はいかにして発見されたか(R.P.ファインマン)より

私、いつも気になってしかたがないのは、私どもが現在知っております法則が、空間の小さい領域についてさえ、そこに何が起こるかを計算するのに計算機でいって無限回の論理演算を必要とする形になっていることであります。空間の領域がどんなに小さくても、またどんなに短い時間のことにしても無限回必要なのです。ちっぽけな領域なのに、どうしてそんなことがありうるのでしょう?空間・時間の一小部分が何をしでかすかの計算に無限の論理がいるのはなぜなのでしょう?(p83)

もう一つ強調しておきたいのですが、このころまでに私は、ありきたりのものの見方とはちがうある物理的の観点に慣れてきました。それまでの見方は、現象を時間の関数として刻々の発展を論ずるものです。たとえば、ある時刻の場が与えられると、微分方程式によって、つぎの瞬間の場のありさまが計算される。これをハミルトン式の観点、あるいは時間微分の方法とよぶことにしましょう。私どものは(たとえばp293の(1)式)、これとちがって、時空全体を一気に眺めわたして粒子の径路の性格を規定するのです*。自然の振舞いは、時空における径路が全体としてこれこれの性質をもつとして記述される。
*(訳注)時空の全体を一気に見渡すので、この見方は時空全局的の観点(space-time view)といわれ、またときには時空の全局を見る巨人の視点といわれる。(p296〜p297)

作用が遅れをもち二つ以上の時刻による場合−いまの問題がそれですが−には波動関数が意味を失います。すなわち、プログラムを、ある時刻のあらゆる場所の波動関数を与えられて別の時刻の波動関数を求めること、というふうに言い表わすことができなくなるのです。でも、それはたいした問題ではありませんでした。たんに新しい考えが展けたというだけでした。波動関数の代りに、こういう言い方をすればよかったからです。何かある源が粒子を放出する、それを別の場所の検出器が受けとる。そこで源が放出して検出器が受けとるという確率振幅を考えることができます。これを源が放出する時刻、検出器が受けとる時刻をきっちりとは指定しないで行なう。また、途中の時刻における状態も指定しない。つまり、実験の全体をひっくるめて確率振幅を考えるのであります。これでも、間に散乱体を入れたときに振幅がどう変わるか、回転をして角度を変えたらどうか等々といった議論にはいっこうにさしつかえがありません。波動関数なしでもすむわけです。(p306〜p307)






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