時間とは

 

スーパービュー踊り子の最後部車両の展望デッキから、あなたが過ぎ去る景色を見ているところを想像してください。警報機が点滅する踏切をいくつも通過しています。電車が踏み切りを通過するたびに踏切が開き、車や人が線路を渡り始めます。やがて、警報機の明滅がゆっくりになり、車や人の動きも緩慢になってきました。そしてついに、警報機の明滅が止まり、人や車の流れが静止してしまいました。あくびをしかけて止まってしまっている人、ブレーキを踏みかけて車の中で止まっている人、そしてその車もストップモーションになってしまいました。何が起こったのでしょう?

今度はあなたが、先頭車両の展望デッキから、前方からせまり来る景色を見ているところを想像してください。手前には駅が迫ってきており、駅の周りにはデパートが立ち並んでいます。そして遠くには太陽が西の空に傾き始めています。太陽の少し横には宵の明星、金星が昇り始めています。やがて、太陽の沈み方が通常より速くなってきました。また金星の昇り方も速くなっています。そして太陽も金星も彗星のように尾を引き始めました。そしてついに、長時間露光した写真のように太陽や金星の尾ははっきりと見えはじめ、遠くの星々も円弧を描き始めました。そして遠い星ほど、長い円弧を描いています。何が起こったのでしょうか?

スーパービュー踊り子号が速度を速め、光の速度になったのです。光速の車両から見た後方の景色と、前方の景色です。

後方の窓からの景色には時間の流れがありません。ある瞬間を写真で切り取った世界です。距離の遠い所ほど、過去であるということになります(今あなたが見ている景色も遠いところは過去なのです。ちなみに、あなたが見ている太陽は8分前の太陽です。)。ところが前方の窓から見える景色には、開闢以来の宇宙の全歴史が重なって見えることになります。距離の遠い所ほど過去が深く、過去から現在までが厚く重なっていることになります。映画のフィルムの一コマ一コマを切り取って全てを重ねて見た感じです。

光の波が満たす波動方程式の解には外向き球面波というものがあります。過去から未来へ球面状に広がってゆく波動です。光速で走行している場合、後ろから来る外向き球面波が追いかけてくるスピードと電車が逃げるスピードが等しいため、電車の中から後方を見ているあなたにとっては、ある一球面つまりある瞬間しか見えないことになります。これが、後方の景色が止まって見える理由です。

前方の景色を見ている場合は、向かってくる外向き球面波のあらゆる面を同時に見ることになります。したがって、全ての歴史を同時に見てしまいます。そして遠くから来た外向き球面波ほど、半径が大きいつまり時間の厚みが厚いので、過去から現在までが厚く深く重なることになります。

波動方程式の解には、内向き球面波というものもあり、これは過去から未来へ球面上に収縮してゆく波です。この波が存在するために、別の景色も見えることになります。

つまり前方には、ある瞬間が一コマだけ見えます。この一コマは、距離の遠い所ほど、未来であるというものです。そして、もう一度後方に目をやると、なんと宇宙の全未来が重なって見えるのです。距離の遠い所ほど未来が進み、現在から未来までが厚く重なっていることになります。

内向き球面波は、過去から未来へ球面上に収縮してゆく波ですが、時間を反転して考えてみると、未来から過去へ球面上に広がってゆく波ということも出来ます。時間を反転して考えているので、電車は後方へ光速で進んでいることになります。前方の窓から見ているあなたには未来からやってくる球面波のある一つの面つまりある瞬間しか見えません。光が前方から追いかけてきますが、同じスピードで後方に電車が逃げているからです。一方、後方の窓では、未来からやってくる球面波のあらゆる面つまり全未来を同時に見ることになります。距離が遠いほど球面の半径が大きく、現在から未来までの時間が厚いことになりますので、遠いほど現在から未来までが厚く重なることになるのです。

 

スーパービュー踊り子号のブレーキをかけ、速度を落としてみましょう。どうですか?あなたの時間に対する常識は少し変わりましたか?

 

 

物理的には。。。

例えば、8光年離れたところから時計が光の速度の80%でこちらに向かってくることを考えて見ましょう。時計は私のところに到着するまで10年かかります。でも速度で運動する時計は

という具合にゆっくりと時を刻みますので、

時計が8光年先を出発した時に0に合わせてあった時計が、私のところに到着した時にその時計は6年しか時を刻んでおりません。

一方で、8光年先を時計が出発したという情報は光の速度でしか進めないため、その情報が私のところに届くのは、時計が出発してから8年後ということになります。そして実際に時計は10年後に私のところへ到着します。

つまり、今私のところに到着した時計は6年という時を刻んでおりますが、0を指している時計の情報(8光年先を出発した時の情報)を始めて私たちが見たのは2年前ですので、

この時計は2年間に6年という時を刻んだように私には見えることになります。つまり向かってくる時計は3倍のはやさで時を刻むように見えます。

逆に遠ざかってゆく時計の場合は、10年かかって、8光年先に到着しますが、やはりこの時計は6年しか時を刻みません。その情報が8光年先から私のところに光の速度で到着するまで8年かかりますので、結局6年という時を刻んだ時計の情報を18年後に見ることになります。つまり、遠ざかってゆく時計を見ている場合、18年もかけて、時計は6年の時を刻むことになりますので、3分の1のはやさで時を刻むように見えます。

ここで、時計の速度が光の速度に限りなく近付いていく場合を考えて見ますと、こちらに向かってくる場合は、限りなく無限大に近いはやさで時を刻むよう見えますし、逆に遠ざかってゆく場合には、時計は時を刻まなくなるように見えるのです。

 

これが、先ほどのスーパービュー踊りの車窓から見える景色の物理的な説明です。